大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大津地方裁判所長浜支部 昭和55年(ワ)73号 判決

原告

平居喜代美

ほか一名

被告

日下光良

ほか一名

主文

被告らは原告ら各自に対し、各金一七〇万六、二二二円及び内金一五〇万六、二二二円に対する昭和五五年五月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、これを五分し、その一を被告らの、その余を原告らの負担とする。

この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告ら各自に対し、各金七九九万六、一二八円及び内金七二九万六、一二八円に対する昭和五五年五月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  訴外亡平居直人は昭和五五年五月一六日午後一〇時一〇分頃に岐阜県不破郡関ケ原町野上一〇七七番地附近の国道二一号線で生じた交通事故(以下、本件事故という。)により即時、同所において頭蓋底骨折、脳挫傷等のため死亡した。

2  責任原因(被告岡本薫)

(一) 被告岡本薫は昭和五五年五月一六日午後一〇時一〇分頃、大型貨物自動車(姫路一一に四七五五号、以下、被告車両という。)を運転し、岐阜県不破郡関ケ原町野上一〇七七番地附近路上を時速約六〇キロメートルで東進中、前方約一一一メートルの自車進路(東行き車線)上を対面進行して来た亡平居直人(当時一八歳)運転の普通乗用自動車(滋五五み二二一七号、以下、被害車両という。)を認めたのであるから、直ちに警音器を吹鳴して自車の存在を知らせたうえ、できる限り道路左側端に寄つて停車すべき注意義務があるのに、これを怠りなんらなすことなく前記速度のまま約二九・九メートル進行した過失により、回避の時期を失し、被害車両に接近して被告車両を右へ転把したが、亡平居直人が被害車両の進路を左へ戻したため、被害車両の前部に被告車両の前部を衝突させたものである。

(二) 事故現場の道路の幅員は車道幅員六・七メートル、高低落差のない人道幅員二・二メートルの合計約九メートルで、事故現場の東方約一五〇メートルで右にカーブし、道路中央に黄色の追越禁止の表示があり、付近の照明は十分ではなかつた。

また、被告車両は右にハンドルを切り、東行き車線には同車両の右車輪のスリツプ痕が一八メートル、左車輪のスリツプ痕が一一メートル残つており、対向車線(西行き車線)三・四メートルの中ほどで西進してきた被害車両と正面衝突し、被告車両前面フエンダーに被害車両の前部をくいこませたまま約一六・二メートルのスリツプ痕を残し、南西の側溝を越えて停止し、被告車両の積荷のろう石を地上に散乱させ、被害車両の運転者平居直人を即死させ、同助手席に同乗の田中勝範に重傷を負わせた。

なお、被害車両のスリツプ痕はなかつた。

(三) 前記(一)のとおり、被告岡本薫は適正な危険回避処置をとらなかつたのであるが、このことについては同被告の本件事故の前日来からの過労運転に起因していることがうかがえる。 すなわち、

被告岡本薫は昭和五五年五月一五日午後四時頃、兵庫県姫路市神崎町を被告車両を運転して出発し、同日には引続き八時間運転したのち、本件事故当日には約一四時間運転していたが、この間被告車両の中で約八時間仮眠していたものの、本件事故発生当時過労の状態で運転していた。

ところで、自動車運転手の業務にあつては、使用者は長時間運転による運転者の疲労が事故発生につながることが多いので、運転者の労務管理を厳しく要求されており、「自動車運転者の労働時間の改善基準」(労働省昭和五四年一二月二七日)によれば、トラツク運転者については、一日につき時間外を含めて九時間以内とし、連続運転時間を四時間以内とし、四時間を経過すると三〇分以上の休息をとること等の運転を中断させることが義務づけられている。

このようにみると、被告岡本薫は本件事故直前に長時間運転労働のために事故回避について通常の運転処置が困難か不可能の状況下で被告車両を運転していたということになり、このことが本件事故の起因となつていることが明らかである。

(四) 以上の次第で、被告岡本薫は本件事故につき過失があり、民法七〇九条により本件事故によつて生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

3  責任原因(被告岡本薫)

(一) 被告日下光良は被告車両の所有者であり、自動車損害賠償保障法三条により本件事故によつて生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(二) また、被告日下光良には使用者責任もある。

被告日下光良は被告岡本薫をその業務の従業員の一人として雇傭していたところ、被告岡本薫がその業務の執行として被告日下光良所有の被告車両を運転して請求原因第2項のとおりの過失により本件事故を惹起し、平居直人を死亡させたものである。

そして、被告日下光良は自動車運転者の労働基準を無視して同岡本薫に過労運転業務を命じ、また一一トン車の大型貨物自動車に一三トンの荷物を積載させて運行を命じたもので、その責任は重く、本件事故の最も大きな原因を与えたといつても過言でなく、被告岡本薫より多額の賠償をする責任がある。

4  損害

本件事故により生じた原告らの損害は次のとおりである。

(一) 葬儀費 金五〇万円

原告らは各々二分の一を負担した。

(二) 逸失利益

亡平居直人は昭和五五年四月高等学校を卒業した後、藤川加工所に機械工として勤務し、一か月金一二万三、五〇〇円を得ていたところ、蓋然性のある算定によると今後金一、八〇四万二、二五六円を得たはずである。

原告らは相続人として各々二分の一を相続取得した。

(三) 原告らは亡平居直人が次男で健康で優しく、勤勉であつたので、その成長を楽しみにし、老後の生活の支えと期待していたところ、本件事故による同人のむごい突然の死亡により、筆舌にいえぬ悲痛を味わい、その精神的苦痛を金銭に評価することはできないが、慰藉料として原告ら両名で金一、〇〇〇万円を求めるものである。

(四) 原告らは原告ら訴訟代理人らに対し弁護士費用として合計金一四〇万円を支払う旨約した。

(五) 原告らは訴外大成火災海上保険株式会社から金一、四〇〇万円の支払いを受けたので、右金員を前記逸失利益に充当する。

5  結論

よつて、原告らは被告らに対し、それぞれ総額金一、五九九万二、二五六円の二分の一の金七九九万六、一二八円及び弁護士費用を控除した内金七二九万六、一二八円に対する本件不法行為の日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項の事実を認める。

2  (被告岡本薫)

(一) 請求原因第2項の(一)の事実中、被告岡本薫が昭和五五年五月一六日午後一〇時一〇分頃、被告車両を運転し、岐阜県不破郡関ケ原町野上一〇七七番地附近路上を東進していたこと、同被告が自車進路上を対面進行してきた平居直人運転の被害車両を認めたこと、同被告が被告車両を右へ転把したが、右平居直人が被害車両の進路を左へ戻したため衝突したことを認め、その余の事実を否認する。

(二) 同項の(三)の事実中、被告岡本薫が本件事故の前日来から運転業務に従事していたことを認め、その余の事実を否認する。

被告岡本薫が従事していた運転業務は時間こそ不規則ではあつたが、定期的に運転行為を続けていたもので、原告ら主張のような過労運転というような事実は全くない。

(三) 本件事故は結局、専ら亡平居直人の過失に起因して発生したものであるから、被告岡本薫にはなんらの過失もなかつたというべきで、その詳細は被告日下光良の抗弁第1項に述べるとおりであり、したがつて、被告岡本薫は本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がない。

3  (被告日下光良)

(一) 請求原因第3項の(一)の事実中、被告日下光良が被告車両の所有者であることを認め、その余は争う。

(二) 同項の(二)の事実中、被告日下光良が被告岡本薫をその業務の従業員の一人として雇傭していたこと、被告岡本薫がその業務の執行として被告日下光良所有の被告車両を運転して本件事故を惹起し、平居直人を死亡させたことを認め、その余の事実を争う。

なお、仮に被告岡本薫が被告車両を運転していた際、積載違反の事実があつたとしても、右事実と本件事故との間に相当因果関係はない。

4

(一)  請求原因第4項の(一)乃至(四)の各事実を争う。

(二)  同項の(五)の事実中、原告らが訴外大成火災海上保険株式会社から金員の支払いを受けた事実を認め、その余は争う。

5  請求原因第5項を争う。

三  被告らの主張

1  (被告日下光良の免責の抗弁)

(一) 被告岡本薫は昭和五五年五月一六日午後一〇時一〇分頃、被告車両を運転し、岐阜県不破郡関ケ原町野上一〇七七番地附近路上を東進中、道路中央線をこえて対面進行して来た亡平居直人運転の被害車両を認め、右へ転把したが、右平居直人が被害車両の進路を対向車線から左へ戻したため被害車両の前部に被告車両の前部を衝突させたものである。

(二) そして、本件事故は結局、専ら亡平居直人の過失に起因して発生したものであるから、被告岡本薫にはなんらの過失がなかつたのである。すなわち、訴外平居直人は昭和五五年五月一六日午後一〇時一〇分頃、被害車両を運転して岐阜県方面から滋賀県坂田郡米原町方面へ向け高速度で進行し、岐阜県不破郡関ケ原町野上一〇七七番地先の左曲線を描いている幅員約六・七メートルの国道に差しかかつたのであるが、およそ自動車運転者たるものは、道路の左側を運転進行しなければならないことはもとより、同所はいわゆる屈曲のある場所で前方に対する見とおしも良好でなかつたのであるから、右側車線に進入しないように注意し、対向車との衝突を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、暴走行為により対向車の運転手を驚かせるために、ことさら道路右側を進行し、対向車である被告車両の直前で左側車線(西行き車線)に戻ろうとしたが、被害車両と被告車両との速度、距離関係の目測を誤まり、あわててハンドルを左に切つたものの、衝突を避けようとして急拠ハンドルを右に切つた被告車両に車体前部を激突させたものである。

(三) このように、本件事故は専ら亡平居直人の過失に起因して発生したものであるから、被告岡本薫にはなんらの過失がなかつたものであり、被告日下光良が被告車の保有者として責任を負ういわれもない。

2  (過失相殺の抗弁)

仮に、被告岡本薫に過失があつたとしても、亡平居直人にも重大な過失があつたから、過失相殺がなされるべきである。

3  原告らはその自認する金一、四〇〇万円のほかに、自賠責保険として訴外大成火災海上保険から金二万七、七六〇円の弁済を受けている。

四  被告らの主張に対する認否

1

(一)  免責の抗弁の(一)の事実を認める。

(二)  同(二)の事実中、亡平居直人が昭和五五年五月一六日午後一〇時一〇分頃、被害車両を運転して岐阜県方面から滋賀県坂田郡米原町方面へ向け進行し、岐阜県不破郡関ケ原町野上一〇七七番地先の左曲線を描いている幅員約六・七メートルの国道に差しかかつたこと、亡平居直人が道路右側を進行し、対向車の直前で左側車線に戻ろうとしたこと、被害車両が衝突を避けようとして急拠ハンドルを右に切つた被告車両に車体前部を激突させたことを認め、その余の事実を否認する。

(三)  同(三)を争う。

2  過失相殺の抗弁を争う。

3  弁済の抗弁事実を否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生

請求原因第1項の事実は当事者間に争いがない。

二  責任原因

1  被告岡本薫

(一)  請求原因第2項の(一)の事実中、被告岡本薫が昭和五五年五月一六日午後一〇時一〇分頃、被告車両を運転し、岐阜県不破郡関ケ原町野上一〇七七番地附近路上を東進していたこと、同被告が自車進路上を対面進行してきた平居直人運転の被害車両を認めたこと、同被告が被告車両を右へ転把したが、右平居直人が被害車両の進路を左へ戻したため衝突したことは原告らと被告岡本薫との間に争いがない。

(二)  同項の(二)の事実について被告岡本薫は明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。

(三)  同項の(三)の事実中、被告岡本薫が本件事故の前日から運転業務に従事していたことは原告らと被告岡本薫との間に争いがない。

(四)  右(一)乃至(三)で認められる各事実に、成立に争いのない甲第一号証、同第八乃至第一四号証、同第一六乃至第一八号証並びに証人岡本幹男の証言及び被告岡本薫本人尋問の結果を総合すると、

(1) 被告岡本薫は昭和五五年五月一六日午後一〇時一〇分頃、被告車両を運転し、岐阜県不破郡関ケ原町野上一〇七七番地附近路上を時速約六〇キロメートルで東進していたが、当時交通量が少なく、先行車もなく、被害車両の前を走行していつた対向車もなかつたこと、

(2) 右の地点は制限速度が時速五〇キロメートルと定められ、東方約一五〇メートルで右にカーブし、道路中央に黄色の追越禁止の表示があり、道路の幅員が車道幅員六・七メートル、高低落差のない人道幅員二・二メートルの合計約九メートルであつたこと、付近の照明は十分ではなく暗かつたが、道路の見通しはよかつたこと、

(3) 被告岡本薫は本件事故の衝突地点の五〇・二メートル手前(被告車両の左側端から道路左側の側溝までは高低落差のない人道も含め約一・五メートルあつた。)で前方約一一一・〇メートルの地点の自車進路上を対面進行してきた平居直人運転の被害車両を認めたが、そのままの速度で進行し、被害車両を発見した地点から二九・九メートル進行した地点で急制動の措置をとるとともに被告車両を右へ転把して対向車線(西行きの車線)へ進入したこと、

(4) 被告車両の右車輪のスリツプ痕が一八メートル、左車輪のスリツプ痕が一一メートル路上に残つているが、西行き車線上で南側端から二・七メートル、被告岡本薫が被害車両を発見した地点から五〇・二メートルの地点で被告車両の前部を被害車両の前部に衝突させたこと、

(5) 亡平居直人は被害車両を運転し、事故現場にさしかかつたが、先行車はなく、訴外笹木徳行の車両がその後方約八〇メートルの間隔で追尾していたこと、

(6) 亡平居直人は衝突地点の約六〇メートル手前で道路中央線を超えて対向車線(東行き車線)を時速約六〇キロメートルで被害車両を走行させ、約三〇メートル走行したのちに西行き車線に戻ろうと左に転把したこと、

(7) しかし、結局被害車両は被告車両と正面衝突し、スリツプ痕は路上に残つていなかつたこと、

以上の事実を認めることができ、右認定に反する証人田中勝範の証言により真正に成立したものと認められる甲第三号証、証人水野雅弘の証言により真正に成立したものと認められる同第四号証、証人笹木徳行の証言により真正に成立したものと認められる同第五号証並びに証人笹木徳行、同田中勝範、同水野雅弘の各証言中の右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし、にわかに措信することができず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(五)  以上の各事実によれば、被告岡本薫は前方約一一一・〇メートルの地点の自車進路上を対面進行してきた平居直人運転の被害車両を認め、かつ被告車両の左側端から道路左側の側溝までは高低落差のない人道も含め約一・五メートルあつたのであるから、この時点で直ちに警音器を吹鳴して自車の存在をより確実に平居直人に知らせたうえ、できる限り道路左側に寄つて急制動の措置をとり被告車両を徐行ないし停止させるべき注意義務があるのに、これを怠り、前記速度のまま二九・九メートル進行した地点で急制動の措置をとるとともに被告車両を右へ転把して対向車線(西行きの車線)へ進入した過失により、直前に進路を左へ戻して西行きの車線を進行してきた被害車両の前部に被告車両の前部を衝突させたことになる。

ところで、被告岡本薫は本件事故が専ら訴外亡平居直人の一方的過失に起因したものであるから、同被告にはなんらの過失もなかつたのであり、亡平居直人が本件事故の直前にことさら道路右側を進行し、対向車である被告車両の直前で左側車線に戻ろうとしたことが本件事故の原因であつた旨主張するところ、前記認定のとおり、平居直人が本件事故の直前に道路右側を進行していたことは明らかであるが、同人が被告車両の存在に気付いていなかつたと疑うに足りる具体的事情が認められなかつたのであるから(逆に、前記甲第一二乃至第一四号証、同第一七号証によれば、被害車両の同乗者や被害車両の後続車の運転手らが被告車両の存在に気付いていたことが認められるのであるから、平居直人も被告車両の存在に気付いていたものと推認することができる。)、やがて正常な進路に復すると考えるのが当然であり、かつ前記認定のとおり本件事故の衝突地点が西行きの車線上であつたことからみても亡平居直人が本件事故直前に正常な進路に復していたことになり、被告岡本薫が道路左側に寄つて急制動の措置をとり被告車両を徐行ないし停止させておれば、本件事故の発生を未然に防止しえたことになり、本件事故が専ら平居直人の過失のみに起因するものといえないことが明らかである。

(六)  なお、前記(三)のとおり、被告岡本薫が本件事故の前日から運転業務に従事していた事実が認められるが、右の事実が本件事故の起因となつていたものと認めるに足る十分な証拠はないといわざるをえない。

(七)  以上の次第で、被告岡本薫は本件事故につき過失があり、民法七〇九条により本件事故によつて生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

2  被告日下光良

(一)  被告日下光良が被告車両の所有者であることは原告らと同被告との間に争いがない。

(二)  そこで、次に同被告の免責の抗弁について判断する。

(1) 免責の抗弁の(一)の事実は被告日下光良と原告らとの間に争いがない。

(2) 同(二)の事実中、亡平居直人が昭和五五年五月一六日午後一〇時一〇分頃、被害車両を運転して岐阜県方面から滋賀県坂田郡米原町方面へ向け進行し、岐阜県不破郡関ケ原町野上一〇七七番地先の左曲線を描いている幅員約六・七メートルの国道に差しかかつたこと、亡平居直人が道路右側を進行し、対向車の直前で左側車線に戻ろうとしたこと、被害車両が衝突を避けようとして急拠ハンドルを右に切つた被告車両に車体前部を激突させたことは被告日下光良と原告らとの間に争いがない。

(3) 右(1)及び(2)の争いのない事実に、前記甲第一号証、同第八乃至第一四号証、同第一六乃至第一八号証並びに証人岡本幹男の証言及び被告岡本薫本人尋問の結果を総合すると、前記1の(四)と同様の事実を認めることができ、右認定に反する前記甲第三乃至第五号証並びに証人笹木徳行、同田中勝範、同水野雅弘の各証言中の右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし、にわかに措信することができず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(4) 以上の各事実によれば、前記1の(五)に述べたと同じ理由により、被告岡本薫は本件事故につき過失があり、したがつて免責の抗弁は理由がなく、被告日下光良は本件事故によつて生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(三)  したがつて、請求原因第3項の(二)について判断するまでもなく、被告日下光良は本件事故によつて生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(四)  もつとも、前記1の(四)の事実によれば、亡平居直人にも本件事故の直前に対向車線を進行し、対向車である被告車両の直前で左側に戻ろうとした点に重大な過失があることが明らかであり、その過失の割合は亡平居直人が六五パーセント、被告岡本薫が三五パーセントと解するのが相当である。

三  損害

そこで、本件事故により生じた損害(過失相殺をも含め)について検討する。

1  葬儀費

官署作成部分については当事者間に争いがなく、その余の作成部分については弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第七号証の一及び弁論の全趣旨によれば、原告らは亡平居直人の葬儀費として金五〇万円(原告一人あたり金二五万円)を負担し、支払つたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

ところで、本件事故につき亡平居直人にも前記認定のとおり六五パーセントの過失があつたから、これを相殺すると、原告らは各金八万七、五〇〇円の損害賠償請求権を取得したことになる。

2  逸失利益

成立に争いのない甲第一五号証、原告平居喜代美本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第六号証及び原告平居喜代美本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、亡平居直人は昭和三六年六月一四日生れで、本件事故当時一八歳の健康な男子であつたところ、昭和五五年四月二一日から滋賀県坂田郡伊吹町所在の藤川加工所こと大谷勇の従業員として採用され、一か月あたり金一二万三、五〇〇円の賃金を受取ることになつたこと、亡平居直人は本件事故にあわなければ、平均余命の範囲で六七歳まで稼働し、その生活費は収入の三〇パーセントを超えないものであることを推認することができ、右認定に反する証拠はない。

右各事実を基礎として、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、亡平居直人の逸失利益の現価をを計算すると、金二、五三二万九、一五八円(一円未満切捨て)となる。

(123,500×12)×(1-0.3)×24.416=25,329,158

しかるに、前記甲第一五号証及び原告平居喜代美本人尋問の結果によれば、亡平居直人の相続人は実父原告平居喜代美と実母原告平居野江であり、亡平居直人の右逸失利益金二、五三二万九、一五八円の損害賠償請求権をそれぞれ二分の一ずつ相続し、原告らは各金一、二六六万四、五七九円の損害賠償請求権を取得したことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

そして、本件事故につき亡平居直人にも前記認定のとおり六五パーセントの過失があつたから、これを相殺すると、結局原告らは各金四四三万二六〇二円(一円未満切捨て)の損害賠償請求権を取得したことになる。

3  慰藉料

前記甲第一五号証及び原告平居喜代美本人尋問の結果によれば、亡平居直人は原告らの次男であり、本件事故当時一八歳の健康な男子で、原告らがその成長を楽しみにしていたことを認めることができ、他に右認定に反する証拠はなく、右各事実に前記一、二で認定した本件事故の態様、事故の結果、亡平居直人にも本件事故発生につき過失があつたことその他本件弁論に顕われた一切の事情を総合すると、本件交通事故で次男平居直人を死亡させたことにより、原告平居喜代美は父親として、原告平居野江は母親として大きな精神的な苦痛を受け、その慰藉料はそれぞれ各金四〇〇万円が相当と認める。

四  弁済

被告らが自賠責保険から金一、四〇〇万円を原告らに対し支払つていることは原告らの自認するところであるが、被告らは右以外に金二万七、七六〇円支払つた旨主張するので検討するに、成立に争いのない乙第一号証によれば、被告らは原告らに合計金一、四〇二万七、七六〇円を支払つたことを認めることができ、右認定に反する証拠はないところ、右弁済金の原告らの損害賠償請求権に按分して充当されたものと解するのが相当である。

そうすると、右弁済金は原告らに対し各金七〇一万三八八〇円がそれぞれ充当され、残債権は原告らにつき各金一五〇万六二二二円となる。

(87,500+4,432,602+4,000,000-7,013,880=1,506,222)

五  弁護士費用

原告らが本件訴訟の遂行を弁護士に委任していることは記録上明らかであり、本件訴訟の内容経過、訴訟の難易、認容額その他の事情を勘案すると原告らの支払う弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係のある損害として請求することができる額は各金二〇万円をもつて相当とする。

六  (結論)

よつて、原告らの本訴請求のうち、被告ら各自に対しそれぞれ金一七〇万六、二二二円及び弁護士費用を除いた内金一五〇万六、二二二円に対する本件事故の日である昭和五五年五月一六日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 佐野正幸)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例